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わたしは今日、九つめの物語を読んでいる。
でももう、その内容なんて、頭には入ってこない。
わたしは今日、生まれて初めて化粧をした。
アンドレに、見てほしかったから。
かわいいって、言ってくれるかな。
本を閉じた後、わたしは俯いたまま、お洒落じゃないメガネを外した。そしてバッグの中に、それを仕舞った。
どきどきしながら、顔を上げた。
心臓が、耳の中にあるように、自分の鼓動が大きく聞こえた。
いつものように、向かいの席にアンドレが座っている。
でも、メガネを外したわたしには、ぼんやりとした彼の輪郭しか見えない。
初めて化粧をしたわたしを、アンドレがどんな顔をして見ているのか、わたしにはわからない。
アンドレは、何も言わなかった。
わたしも、何も言えなかった。
「やっぱり、ダメ!」
わたしは、バッグの中からメガネを取り出そうとした。その時、取り出したメガネがテーブルに当たって、わたしの手から離れた。
メガネは音を立てて、床に転がった。
目の悪いわたしには、メガネがどこにあるのかも、もうわからない。
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