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「――ほな、お梅はん奪還成功を祝して!」
佐々木がお茶の入った湯呑みを掲げ、花も同じように湯呑みを持ち上げる。
「乾杯!」
ゴツッと重い音を立てて湯呑みをぶつけると、佐々木は訝しげな顔をした。
「なんや? 『かんぱい』て」
「え、言わないですか? お祝いの席でお酒をのむときとか」
自分は二十歳になったばかりなので経験はないが、よく大人たちが飲み会などでビールジョッキ片手に言っているのを見た。
佐々木は「聞いたことないな」と首を傾げる。
「まあええわ。それよりほんまに、うまくいってよかったな」
「そうですね」
佐々木の言葉に満面の笑顔で頷く。
梅を太兵衛の妾宅から連れ出したあと、花と佐々木は壬生寺裏の水茶屋で祝杯をあげていた。ちなみに変装はすでにやめて、二人ともいつもの格好に戻っている。
梅は初め佐々木の恋人であるあぐりの家に預ける予定だったが、秀二郎の勧めでひとまず八木邸に滞在してもらうことにした。
芹沢が自分が強引に連れてきたことにすると言ってくれたため、花たちのしたことが土方にばれることもない。
太兵衛が今後梅に何かしてこないとも限らないので、花としても屯所で預かることになって安心だと思った。
「そういえば、どうして芹沢さんが扇子みたいなものを出したとき、飛び出していったんですか?」
「ああ、あれは鉄扇やねん。芹沢はんがあれで人のこと殴って怪我させるとこ、よう見たことあったさかい」
それでは芹沢は、佐々木が現れなければ末松を殴って強引に梅を連れていくつもりだったのだろうか。
空気が抜けたように、みるみる気分が萎んでいく。
「……あの、どうして佐々木さんは浪士組にいるんですか? 人を斬ったりすることもあるのに、嫌じゃないんですか?」
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