7705人が本棚に入れています
本棚に追加
芹沢を連れて戻ってくると、秀二郎が持ってきたらしい塗り薬を、梅が傷口に塗っているところだった。
手当てが終わるのを待って、芹沢が金を渡す。
「……残りの金だ」
芹沢は梅の怪我について、特に触れることはしなかった。梅は金を受け取り、秀二郎に礼を言うと、早々に立ち去ろうとする。
「ま……待ってください」
それを秀二郎が止めた。
「帰ったら、また酷い目に遭うんどっしゃろ……? そやったら――こんまま、うっとこにおりまへんか?」
「え……」
「あっ、その、へ、変な意味やなくて……! ただ俺は、お梅はんが心配で……ここおってくれはったら、安心やし……そやから……」
秀二郎の声はどんどん尻すぼみになっていく。
「……おおきにありがとうございます」
梅は深々と頭を下げた。
「そやけど、そない気遣いはいりまへん。――うちのことはどうぞ放っといてください」
梅の声は静かだったが、どこか冷ややかな響きがあった。固まる秀二郎に背を向けると、梅は玄関を出ていく。
「ほんなら、おやかまっさんどした」
「あ……」
秀二郎は呼び止めようとするように口を開けたが、結局何も言わなかった。小さくため息をついて、末松が梅のあとを追う。
「中途半端に首突っ込むんは、やめてくれまへんかね……」
去り際呟いた末松の言葉に、秀二郎はうつむくだけだった。
最初のコメントを投稿しよう!