四品目 壬生浪の洗礼

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 七月半ばの京は、現代であれば祇園祭のまっただ中だ。しかし江戸時代には祇園祭は祇園御霊会と呼ばれ、六月に行われていた。というのも、明治五年まで使われていた天保暦が、現代ではグレゴリオ暦に改暦されているからだ。 そんなわけで花は、祭りも終わり落ち着いた雰囲気の洛中を、沖田に連れられて歩いていた。 「神崎さん、あそこで団子売ってますよ! ちょっと寄って行きません?」 「行きません」  目を輝かせて袖を引いてくる沖田に、間髪入れずに答える。わけも分からないまま屯所から引っ張ってこられたが、何が楽しくて沖田とお茶しなければならないのか。  沖田は花の態度に拗ねたように口を尖らせた。 「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか。いつも屋敷にこもってばかりですし、たまには身体も動かさないと」 「許可がなくても屯所を出られるなら、私だってもう少し外出してますよ」 「あーっ、見てください! おしるこ売ってますよ!」  わざとなのか素なのか、沖田は花の言葉を無視して近くの茶屋を指さした。思わずげんなりしてため息をつく。 「だから行きませ――って、ちょっと沖田さん!?」 「まあまあ、そう言わず! 寄って行きましょうよ」  沖田は花の腕を引いて、なかば無理やりに茶屋へと向かう。  店に入ると、結い上げた髪に少し白髪の混じった女将が笑顔で出迎えてくれた。 「おいでやす」 「どうも、おしるこ二杯ください」 「おおきに。さ、おあがりやして」
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