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女将に促されて、花と沖田は奥の座敷に向かい合って座る。花は女将がいなくなると、慌てて沖田に顔を寄せた。
「あの、私お金持ってないんですけど……」
「あははっ! 神崎さん、もしかしてそれ気にして来たがらなかったんですか? 全く、野暮なこと言わないでくださいよ」
「え……」
思わず目を丸くする。もしかして奢ってくれるのだろうか。
「全部私が食べるに決まってるでしょう?」
「あっそうですか!」
文句を言うのも馬鹿馬鹿しくなってそっぽを向く。そんな花を見て、沖田はおかしそうに笑った。
「冗談ですよ、ほらどうぞ」
言いながら、運ばれてきたお盆を差し出す。
「え? あ、ありがとうございます……」
「ああ、そっちじゃないですよ」
おしるこに手を伸ばした花に言って、沖田はその隣に置かれた小鉢を顎で示した。
「私、漬物苦手なんです」
「――ありがたくいただきます!」
この男の言葉は二度と信用しない。
心に固く誓ってから、花は小鉢を奪うように取った。
「うーん、甘いものって食べると本当に幸せな気持ちになれますよね」
「よかったですね……」
おいしそうにおしるこを食べる沖田を睨みつつ、漬物を齧る。そこへ総髪に髷を結った、商人風の男が暖簾をくぐって店に入ってきた。
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