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しばらくすると、店が混んできた。花は沖田に待っているよう言われていたので、そのまま席に居続けていたが、ついに店の女将に、
「すんまへんけど、食べ終わったんやったら席空けたってくれまへんか……?」
と頼まれてしまった。沖田は金を払って出ていたらしく、花はこれ以上居座ることもできず、仕方なく店を出た。
「また浪士組が暴れとるらしいな」
店先に立って沖田を待っていると、ふと話し声が聞こえてきた。
「ああ。さっき見たけど、一人死人が出たみたいやったで」
「――え?」
目の前を通り過ぎようとした男の袖を、とっさに掴む。
「あの、すみません! 死人が出たって、浪士組にですか?」
男は突然話しかけてきた花を、訝しそうに見ながらも頷いた。
「せや。浅葱の羽織り着とったさかい、間違いないな。頭からばっさり斬られとったで」
男の言葉を聞いた瞬間、全身からさあっと血の気が引くのを感じた。
浪士組の人が死んだって、一体誰が……。
隊服を着ていたそうだから、まず沖田ではない。今の時間、巡察に行っていたのは誰だったろう。
巡察前に水筒を配ったときのことを思い出す。確か三隊に分かれていて、それぞれ隊長は永倉と原田、佐伯だった。
「あ……」
ふと脳裏をよぎった光景に、花は心臓を握られたような気がした。――そういえば、佐伯の隊には山崎がいた。
永倉と原田がやたらと絡んできていたため、近寄っては来なかったが、目が合うと軽く手を上げて笑ってくれて……。
「あのー、あんたはん、用ないんやったらそろそろ離してくれへん?」
男が顔を覗きこんでくる。花は掴んだままだった袖を強く握り締めて、顔を上げた。
「……斬り合いがあったのって、どこですか?」
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