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男から場所を聞くと、花は居ても立ってもいられず走り出した。
沖田からは茶屋にいろと言われていたし、そもそも斬り合いの現場に行くなんて危険だ。巻き込まれて怪我をしたり、死んだりなんて絶対にしたくない。――そう思いながらも、一度走り出してしまった足は止まらなかった。
しばらくすると、遠くに人だかりができているのを見つける。人混みの中からはちらちらと浅葱の色が見え、中心にいるのは浪士組の集団だと分かった。ここから見た限りでは、死体らしきものは見えない。
花はひとまず沖田を捜そうと、背伸びをして視線をめぐらせた。沖田は浅葱色の隊服を着た隊士たちの中で、唯一藍色の着物に袴姿だったため、すぐに見つかった。
「すみません、通してください」
沖田に声をかけようと、人混みを掻き分けて進む。そのとき、
「死ねえぇっ!!」
一人の男が刀を振り上げて、隊士たちに向かっていった。
――危ない。花はとっさに叫ぼうとしたが、それが声になることはなかった。
「う……ぐっ」
隊士たちに襲いかかった男が、刀を握り締めたまま数歩後ずさる。彼の歩いた地面には、赤い血の跡ができていた。
男の前には、抜身の刀を持った沖田の姿がある。花はその光景を呆然と見つめた。
沖田が、男を斬ったのだ。それを理解するのに、少し時間を要した。
「死にたくなければ刀を置きなさい」
男を睨んだまま、沖田が言い放つ。男は苦しそうに顔を歪めながらも、再び刀を振り上げた。
「くそ……っ!」
「――駄目、逃げて!」
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