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刀の切っ先が自分に向けられるのが分かった。
……斬られるのだろうか。
頭の片隅で思ったが、まるで他人事のように心が動かない。目の前で起きた全てのことに現実感がなく、白昼夢でも見ているような気分だった。
「――神崎!」
突然怒号が響いて、沖田と花の間に誰かが割って入ってきた。声の主は花が顔を上げるより早く、襟を掴んで立ち上がらせる。
まばたきしたあとには、花の身体は地面に打ち付けられていた。
一瞬何が起きたか分からなかったが、じわじわと焼けるように痛みだす頬に、殴られたのだと理解した。
「何しとるんや、お前……」
顔を上げると、固くこぶしを握り締めた山崎が立っていた。怒りを露わにしたその姿を、ぼんやりと見つめる。
「来い!」
山崎は花の腕を乱暴に掴み、再び立ち上がらせると、なかば引きずるようにして歩き出した。途中で草履が片方脱げたが、山崎は見向きもせずに歩き続ける。
屯所に着くと、山崎は奥庭に建つ古びた蔵に花を押し込んだ。その拍子に転んだ花は、顔だけ振り向いて山崎を見上げた。
「……しばらくそこで反省しとけ」
たったそれだけ言って、山崎は分厚い蔵の扉を閉める。続けて錠をかける重たい音がして、花は薄暗い闇の中に一人取り残された。
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