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「あの――沖田先生」
「……はい、何ですか?」
山崎と花の去った方を向いていた沖田は、隊士の声にゆっくりと振り返った。隊士は沖田の顔色をうかがいながら口を開く。
「浪士の捕縛、遺体の処理ともに完了しましたが……」
「承知しました。この隊の隊長は佐伯先生でしたよね?」
「はい。そういえば、佐伯先生はどちらにいらっしゃるんでしょう……」
隊士がきょろきょろと辺りを見回す。
「……私は先に屯所へ戻ります」
そう言い残すと、沖田は半分ほどになった人だかりを抜けて歩き始めた。
今日着ていたのがこの色の着物でよかった。歩きながら返り血のついた袖へ目を向ける。藍色の着物は血の色をうまく隠してくれていた。
ただ、錆びた鉄のような血の臭いだけは、いつまでも身体を付きまとって離れない。
この臭いが気にならなくなったのは、一体いつからだったろう。
沖田はふと、そんなことを考えた。
初めて人を斬った日のことは、今でも鮮明に思い出せる。あれは近藤たちとともに上洛を果たして、一月がたったある夜のことだった――。
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