四品目 壬生浪の洗礼

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「心配性ですねえ、土方さんは。私、もう子どもじゃないんですよ」 「それはそうだが……」 「殿内さんとは何度か試合をしたことがありますけど、一本だって取られたことはないですし、私が適任だと思います。それなのに何を迷うことがあるんです?」  微笑んで首を傾げると、土方もそれ以上は止めなかった。 「……分かった、お前に任せる。亥の刻になったら四条大橋で待機して、殿内が来たら討て」 「承知しました」  土方に頷いて、作戦の詳細について少し話をすると部屋を出た。  庭に面した廊下を歩きながら、ふと空を見上げる。あんなに暗く汚れた話をしていたのに、雲一つない空は嫌味なほど明るく澄み渡っている。  ……地位や名誉とは、そんなにいいものなのだろうか。  土方と話したことを反芻しながら、ぼんやりと考える。土方だけでなく、壬生浪士組に所属するもののほとんどは立身出世を望んでいる。尽忠報国の志を持って浪士組に志願した近藤でさえも、その気持ちがないわけではない。  だが沖田は、そうしたものには全く興味がなかった。沖田の家は武家だったが、そのわりに貧しく、あまりいい目を見てこなかったからかもしれない。
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