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同日亥の刻、沖田は四条大橋近くの物陰に潜み、殿内が来るのを待っていた。
「はあ……」
冷えた指先を口元にやり、息を吐く。春分の日を過ぎ、最近は羽織りがいらないほど暖かい日が続いていたが、今日に限って冬が戻ってきたかのように冷え込んでいた。
ここに着いてから、すでに四半刻が経過している。橋へ目を向けたまま、殿内はまだ来ないのだろうかと考えて、沖田は自分の気がずいぶん緩んでいることに気づいた。
殿内は剣術に明るく、北辰一刀流の免許皆伝者でもある。酒に酔っているからと油断していては怪我をしかねない。
改めて気を引き締めると、暗闇に目を凝らす。そのとき沖田は、橋の中ほどに旅姿の男がいるのを見つけた。
どくりと心臓が脈打つ。沖田は男を見つめたまま、刀の柄に手を伸ばした。
幸い、他に人影は見当たらない。
早鐘を打つ胸を押さえ、橋の前まで移動すると、殿内が間合いに入るのを息を殺して待った。
まだだ……まだ早い。
酒に酔っているせいか、少しおぼつかない足取りの殿内は、ゆっくりと歩を進める。
あと、少し……。
沖田は静かに、刀の鯉口を切った。
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