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――今だ。
素早く殿内の前に飛び出すと、袈裟懸けに斬り下ろす。刀が殿内の身体に沈み込むその瞬間、殿内は沖田の顔を振り仰いだ。
ふと、殿内と目が合う。彼の目に浮かんでいたのは、恐怖でも殺意でもなく、ただ困惑のみだった。
肩から胸にかけてを斬ったところで、沖田は手にしていた刀を取り落とした。
「あ……」
どうしようもないほどに、手が、足が、震えていた。
ふらつく足で沖田は数歩後ずさる。
「うああああ……っ!!」
獣のような声で殿内が叫ぶ。彼の着物は溢れる血でみるみるうちに赤く染まっていった。
「お……きた! くそっ……謀ったな……!?」
殿内は肩で息をしながら、憎悪に満ちた目で沖田を睨む。左手で肩を押さえると、素早く空いた方の手で沖田の刀を拾った。
「死ねええ!!」
刀を振り上げて叫んだその声に、沖田はようやく我に返った。とっさに抜いた脇差で刃を受け止めると、力任せに弾き返す。
「――っくそ」
沖田は浪士組きっての剣の使い手。対して殿内は酒に酔い、手傷も負っている。
圧倒的不利を悟った殿内は、踵を返して四条大橋を駆け戻った。
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