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あとを追おうと足を踏み出した沖田は、一瞬――ほんの一瞬だけ、ためらった。
あの傷では放っておいてもいずれ死ぬだろう。それなのに、わざわざ追いかけてとどめを刺す必要はあるのだろうか。
それは、まぎれもない言い訳だった。
肉を斬った感触はいまだ生々しく手のひらに残っており、沖田はただそれをもう一度味わうことに恐怖していたのだ。
しかしそんな自分に気づいた沖田は、すぐに思い直して殿内のあとを追った。
四条大橋を半町ほど走ったところで、もう少しで間合いに入るという距離になる。沖田は脇差を構えようと腕を上げた。
そのとき、沖田の目が一つの人影を捉えた。十歳にも満たないだろう年頃の少年が、誰かを探している様子で辺りを見回しながら歩いている。
少年は殿内に気づくと、声を弾ませて駆け出した。
「あっ、おとん? おかえんなさ――」
「どけ、小僧!」
殿内は手にしていた沖田の刀で少年を斬りつけた。砂袋を下ろしたような音とともに、小さな人影が地面に吸い込まれる。
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