四品目 壬生浪の洗礼

38/49
前へ
/301ページ
次へ
 屯所に帰った沖田は、まっすぐに井戸へ向かった。  無心で水を汲むと、桶の水を頭から被る。一瞬ぎゅっと心臓が縮んだような感覚がして、すぐに身体が震えだした。  それでも沖田は構わず、たらいいっぱいに水を張ると、両手を突っ込んで乱暴に擦り合わせた。  何度も何度も、水を替えては手を洗った。  だが、いつまでたってもあの血の感触も、臭いも、消えてくれない。 「くそっ……!」 「――総司」  ふと聞こえた声に、顔を上げる。そこには硬い表情をした土方が立っていた。 「もうやめろ」  そう言うと、土方は手に持っていた手ぬぐいを沖田の頭に掛けた。沖田は唇を噛んで、手ぬぐいを握りしめる。 「こんな冷える夜に水被るなんて、正気か?」  土方が背を向けて、たらいの水を流す。その様子を目で追いながら、沖田は口を開いた。
/301ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7710人が本棚に入れています
本棚に追加