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蔵に閉じ込められた花は、しばらくのあいだ座り込んだまま動けなかった。脳裏には先ほどの凄惨な光景が焼きついていて、離れない。
ただただ、恐ろしかった。
人を斬った沖田が、動かない死体が、それを平気で見つめる人々が――ひいてはこの時代が。
「逃げなきゃ……」
無意識のうちに呟いて、はっとする。
そうだ、逃げなければ。このままここにいれば、どんな目に遭わされるか分かったものではない。
花はふらふらと立ち上がり、蔵の扉を掴んで揺らしてみた。しかしかなり頑丈な造りのようで、びくともしない。
他にどこか外へ出られそうなところはないかと周りを見渡してみるが、高い場所に格子窓があるくらいだ。格子の間隔は狭く、とても外へは出られそうにない。
「……どうしよう」
自分はこれからどうなるのだろう。――まさか、殺されてしまうのだろうか。
考えて、息が止まりそうになった。
沖田に斬られそうになったときは、混乱する気持ちが大きく怖いと思う暇もなかったが、一度冷静になると駄目だった。
まるで底なしの沼に沈んでいくように、恐怖が身体をのみ込んでいく。花は震える身体を強く抱きしめた。
格子窓から見える太陽は、とっくに真上を通り過ぎている。――これ以上時間を無駄にはできない。
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