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脱出に使えそうなものを探そうと、花は蔵の中を歩き出した。
怯えていても何も始まらない。頼れるのは自分だけなのだ。
あんなによくしてくれた山崎でさえも、簡単に自分を裏切ったのだから。
ひりひりと痛む頬に、そっと手を当てる。鏡がなくとも腫れているのが分かる。
山崎の怒りに満ちた声と表情を思い出し、花は視界が滲むのを感じた。
――事情も聞いてくれなかった。きっと山崎は初めから花のことなど信用してはいなかったのだ。そうとも知らず、一方的に心を許したりして……馬鹿みたいだ。
いつか、大坂で山崎に励ましてもらったことを思い出す。義右衛門にまずいと料理を突き返されて、心が折れそうになったとき、山崎の言葉に救われた。
あのときの言葉も、全て嘘だったのだろうか。
涙が溢れそうになり、花はきつく唇を引き結んだ。
泣いている暇なんてない。今はとにかく、ここから逃げることを考えなければ。
蔵は今は使われていない味噌蔵のようで、花の背丈より大きい樽がいくつも並んでいる。その傍には味噌作りの道具らしきものが置かれていたため、花はそれらを一つ一つ調べ始めた。
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