四品目 壬生浪の洗礼

42/49
前へ
/301ページ
次へ
 脱出に使えそうなものを探そうと、花は蔵の中を歩き出した。  怯えていても何も始まらない。頼れるのは自分だけなのだ。  あんなによくしてくれた山崎でさえも、簡単に自分を裏切ったのだから。  ひりひりと痛む頬に、そっと手を当てる。鏡がなくとも腫れているのが分かる。  山崎の怒りに満ちた声と表情を思い出し、花は視界が滲むのを感じた。  ――事情も聞いてくれなかった。きっと山崎は初めから花のことなど信用してはいなかったのだ。そうとも知らず、一方的に心を許したりして……馬鹿みたいだ。  いつか、大坂で山崎に励ましてもらったことを思い出す。義右衛門にまずいと料理を突き返されて、心が折れそうになったとき、山崎の言葉に救われた。  あのときの言葉も、全て嘘だったのだろうか。  涙が溢れそうになり、花はきつく唇を引き結んだ。  泣いている暇なんてない。今はとにかく、ここから逃げることを考えなければ。  蔵は今は使われていない味噌蔵のようで、花の背丈より大きい樽がいくつも並んでいる。その傍には味噌作りの道具らしきものが置かれていたため、花はそれらを一つ一つ調べ始めた。
/301ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7710人が本棚に入れています
本棚に追加