7710人が本棚に入れています
本棚に追加
「お母さん……」
今頃どうしているだろう。父親だけでなく、自分までいなくなって、どんな想いでいるのだろう。母を想うと郷愁に胸が締め付けられて、息をするのも苦しかった。
「もう嫌だ……お願いだから、帰して……っ」
現代にいた頃は嫌いだった、うるさい車のエンジン音や夜の街の派手なネオンでさえも、今はひどく懐かしい。
花は床の上にうずくまり、涙が枯れるまで泣き続けた。
どれくらいたった頃か、ようやく泣き止んだ花は、涙を拭って顔を上げた。思い切り泣いて、少し落ち着きを取り戻していた。
自分はもう、現代には帰れないのだろうか。
ここで暮らし始めてから、もうずいぶんたつが、いまだ元の時代へ帰れる予兆すらない。
――帰りたい。
花は、強く願った。
自分がどうしてこの時代に飛ばされたのかなんてどうでもいい。ただ、もといた時代が恋しかった。
膝を抱えて座り直し、格子窓から空を見上げる。暗い闇の中、半分に欠けた月だけが冷たく輝いていた。
最初のコメントを投稿しよう!