四品目 壬生浪の洗礼

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「お母さん……」  今頃どうしているだろう。父親だけでなく、自分までいなくなって、どんな想いでいるのだろう。母を想うと郷愁に胸が締め付けられて、息をするのも苦しかった。 「もう嫌だ……お願いだから、帰して……っ」  現代にいた頃は嫌いだった、うるさい車のエンジン音や夜の街の派手なネオンでさえも、今はひどく懐かしい。  花は床の上にうずくまり、涙が枯れるまで泣き続けた。  どれくらいたった頃か、ようやく泣き止んだ花は、涙を拭って顔を上げた。思い切り泣いて、少し落ち着きを取り戻していた。  自分はもう、現代には帰れないのだろうか。  ここで暮らし始めてから、もうずいぶんたつが、いまだ元の時代へ帰れる予兆すらない。  ――帰りたい。  花は、強く願った。  自分がどうしてこの時代に飛ばされたのかなんてどうでもいい。ただ、もといた時代が恋しかった。  膝を抱えて座り直し、格子窓から空を見上げる。暗い闇の中、半分に欠けた月だけが冷たく輝いていた。
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