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夜四つの鐘が鳴る頃、山崎は土方の部屋を訪れていた。
「昼間捕縛した浪士の件、どうだった」
土方が尋ねる。
「御番所に引き渡したあと尾関が張ってましたけど、半刻前に放免になったのを確認したそうです」
「馬鹿な……。うちのやつが一人殺されてんだぞ」
思わずといった風に、土方が声を荒げる。
今朝の巡察中、山崎のいた佐伯の隊は尊攘過激派浪士の急襲にあった。殺されたのはつい数日前に入隊したばかりの仮同志で、まだ正式には浪士組の一員でなかったが、それにしてもこちらに非は全くなく、浪士たちが無罪放免になる理由はないはずだ。
しかし山崎はこの結果に驚きはしなかった。というのも、今回捕縛した浪士たちの中に一人、一月前に御番所へ引き渡した男がいたからだ。この男も人を斬っており、しかるべき罰を下されるべきだが、なぜか特に罰せられた様子もなかった。
「どう考えても、御番所が怪しいな」
「はい。それと、今回の浪士の急襲にも気になるところがあります」
「何だ?」
「急襲は永倉はんと原田はんの二隊と一番離れた場所におったとき、しかもちょうど狭い路地に入ったときに前後から挟み撃ちするような形でされました。浪士たちは隊がどう動くか知っとったとしか思えまへん」
「だが巡察の行程は毎日変わるものだ。待ち伏せなんてできるもんじゃ――」
言いかけて、土方は何かに気づいたように言葉を止めた。
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