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錠を外し、蔵の扉を開けると、床に座り込んだ花が黙って見上げてきた。山崎が殴った頬は赤く腫れていて、胸のどこかが少し痛んだ気がした。
「出てき」
「……私のこと、殺すんですか?」
花はこぶしを握りしめて、睨むような目を向ける。
「お前が茶屋離れたんは、浪士組に死人が出たて聞いたからやったんやろ。裏は取れとるさかい、罰受けることはない」
山崎の言葉を聞くと、花は束の間うつむいて、立ち上がった。足早に蔵を出て山崎の脇を通り過ぎようとする。
山崎はそんな花の腕を掴んで止めた。
「どこ行く気や」
「ここを出ていくんです。放してください」
花は顔を背けて腕を引く。山崎は思わずため息をついた。
「そない勝手、許されるわけないやろ。お前まだ自分が疑われとるて分かってへんのか?」
「――分かってますよ!」
叩きつけるような声で花が言った。
「結局山崎さんも、私のことずっと疑ってたんでしょう!? 私は山崎さんのこと信じてたのに……!」
掴んだ花の腕は、怒りからか微かに震えていた。
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