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早朝前川邸の台所には激しい包丁の音が響いていた。苛立った表情で冬瓜を切るのは、壬生浪士組の料理人、神崎花である。
沖田に斬られそうになったあの日から数日がたっていたが、花は今も相変わらずこの場所で料理を作っていた。
そしてここ最近すっかり恒例となってしまった『あること』に、花は朝から不機嫌だった。
「お、おい、左之お前が行けよ」
「ああ!? ぱっつぁんが誘ってきたんだろ、自分が行けよ!」
「無理だろ! 今行ったらぜってぇ切り刻まれる!」
「今朝の朝餉はぱっつぁんの煮込みか……」
「やめろ、合掌すんな!」
「――もう、何なんですか!!」
こそこそと、しかしいつまでも続く話し声に、ついに耐え切れなくなった花は、包丁をまな板に叩きつけて怒鳴った。
振り返った先には物陰に隠れてこちらをうかがう浪士組の副長助勤、原田左之助と永倉新八がいる。屈強な身体を持つ男二人がくっついて隠れているさまは、正直気持ちが悪い。
「毎日毎日そうやってこそこそして、何の用ですか? 言いたいことがあるなら、はっきり言ってください!」
睨みながら花が詰め寄ると、永倉と原田は顔を青ざめさせてのけぞった。
「は、はは花ちゃん! 落ち着いて!」
「左之の言うとおりだ、とりあえず包丁を置こう! な!?」
二人の言葉に自分の右手を見ると、包丁を持ったままだった。花は二人を睨んだまま、荒っぽく包丁を置いた。
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