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「新しい番組の撮影があるんだ」
といって鼻歌交じりに、お気に入りのショートブーツを履いて、今朝、テツ君は家を出ていった。
きっと今頃は、撮影所近くのいつものお店でプロデューサーさんと飲んでいるのだろう。
新番組で共演する方とは、既に意気投合。
共演者の出演する舞台を観た感想を、彼は少年のように興奮しながら語る。
今の仕事は、とっても楽しそう。
私の知らない彼があふれる撮影現場は、どんな感じなのかな?
なんて想像してたら、ちょっと寂しくなった。
”もう寝るね。おやすみぃ~”
LINEで、絵文字スタンプもつけずにメッセージを送った。
- THE 可愛くない私 -
最終回の今日ぐらい、お祝いしたかったのにな。
-----そして、一緒に観たかったな。
拗ねてしまったけれど、やっぱり、テツ君が頑張った番組の最終回は、観てから寝よう。
ベッドルームのドアを開けて、勢いをつけてベッドにダイブする。
固いスプリングが波打ち、マキシワンピの裾がめくれ上がった。
私の手に握りしめてあったスマートフォンが指先から離れて、ベッドから滑り落ちそうになる。
それを、慌てて両手を伸ばしてキャッチする。
ふう。セーフ。
安堵のため息をつく私に、「ヒュー♪豪快だなぁ~」と、頭上から称賛の口笛が降ってきた。
その声に驚き、顔を上げる。
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