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「旅立つ、アナタへ」
アロンが旅立つことを聞いたのは、船が出港する前だった。
あの優しいアロンが旅立つなんて。
わたしを置いて旅立つなんて、ぜったい嘘だと思った。
島の港に走っていくと、白い帆を張った帆船が停まっていた。
よかった、間に合った。
汗だくのわたしは旅行者の群れのなかに、小さなアロンの姿を見つけた。
「アロン──!」
叫び声に気が付いたのか、アロンはわたしを見つけて駆けてきた。
「エリーシャ、どうして……」
アロンは困った表情で、泣きそうなわたしに訊ねた。
「島をでるって、本当なの?」
「エリーシャ、誰から聞いたんだい?」
「いいからアロン、答えて!」
わたしの頬をつたう涙を拭って、アロンは空を見た。
抜けるような青空に潮風が吹き、カモメが弧を描いて翔んでいる。
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