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俺こと麻宮悠の朝は早い。
しかし、朝だからと言ってやることはないのだが、半ば強制的に起こされるのだから仕方があるまいよ。
それもそのはず、このアパートには色々な動物が暮らしている。
犬猫は勿論のこと、野生のリス、燕、蜘蛛、あと……黒光りするGとかね。
その中でも一番インパクトがあるのが鶏(にわとり)だ。
このおんぼろアパートの住人には変わり者が多いような気がする。その中の一人にかなり寝坊助な住人がいるのだ。
その住人が朝に目覚めることを目的に飼い始めた鶏は、必ず8時に回ってくる地域ゴミ回収の10分前に大きな鳴き声を上げる。
安物の目覚まし時計と比べ、アパート前の無駄に広い敷地の端にある鶏小屋からの鳴き声の方が凄まじいのだ。
まぁ、飼い主が起きなければ仕方がないが。
お蔭で俺もゴミ出しの時間に起きることが出来る。
欠伸をし、肩を軽く回しほぐす。
布団から出ると、空気の変化に寧ろ心地良さすら感じる。
この快感があるからこそ、迷惑届を出さないのだ。ありがたく思えよ。
俺は前の日に縛っておいた半透明のごみ袋に手をかける。
中身は牛乳パックや新聞、古布、雑誌と雑紙、発泡スチロールなどのリサイクル用品だ。その為、男の力で持ち上げることは容易い。
そのゴミの中には、まだ新しい箱が分解されて押し詰まっていた。これは昨日お隣さんから頂いた手打ちそばだ。
そばの茹で方に憶えのあった俺は、昨日の夜は結局買い物には出かけずにそのそばを茹でて食べた。
味の評価を忘れていたが、とても美味だったです。
少しザラザラ感があるものの、のどごしと弾力は俺にとってちょうどいい具合だった。
これを出すそば屋があったら、高頻度で通っていることだろう。
これを作ったのがジェイソンでなければだが。
「……暮らしている生物の中にジェイソンも追加しないとな……」
あははと静かに冷笑すると、俺は両手にゴミ袋を持つと、玄関から外に出た。
春の陽気と言っても朝はまだ寒いものだ。朝の綺麗な雲色と心を清められるような涼しい空気が体を撫でる。
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