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上を見ても白。
壁を見ても白。
扉も白。
そしてそこで働く人も白。たまに緑の服を着た人も通る。
そんな大人たちが時間と戦うかのように忙しく、汗を垂らしながら駆け回る。
そしてその大人たちは吸い込まれるように、長い廊下の終わりに設置された大きな扉に入る。そしてたまに出てくるのだ。
そんな光景の中で、廊下の端にポツンと立っている私はぼんやりと大きな扉の上に取り付けられたライトを見ていた。
自分にやれることは、『手術中』と書かれた赤い照明を見ることだけだと、幼い自分でも理解することは容易な事だった。
私の隣では更に幼い妹が、壁に背中をくっつけ、両手で顔を覆いながら泣いていた。鼻をすすり、両手で涙が溢れる目をゴシゴシと擦るその姿は涙を誘ってくる。
そんな妹の細い腕や顔の覆いきれていない隙間から、青あざや絆創膏が見え隠れしている。そんな痛々しい姿に、私は奥歯を噛み締め、こんな事になってしまった責任を感じて……
それでも、隣にいる妹を更に悲しませないために、涙を堪えた。
病院の廊下に設置されたベンチの前で、両親と親族の人が大きな声で言い争いをしていた。
私たち家族が真っ先にこの病院に……いや、"怪我人を連れて来て"、そして後から来た親族に事情を説明していた。
しかし説明は周りからの批判もあって、いつしか喧嘩へと発展してしまった。
その集団を少し離れたところで見ていた私は、大勢の親族の中にある人物を見つけ、緊張で唾を飲んだ。
(……いた、あの人だ)
茶色い髪の、スカートの丈が短く白い高そうなスーツを着こなしている若い女性が、父の姉だ。
私は、その人にどうしても伝えないといけないことがあった。
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