夢物語 一

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離れに向かって早半日。 王様は1日かかるとか言っていたが、この勢いだともうすぐつきそうだった。 だいたい、何で私が馬鹿王様の息子に仕えなきゃならない。 絶対馬鹿に決まってる。 なんたってあの王様の息子なんだ。 裸踊りをする、あの王様の。 外は雪がしんしんと降っていた。 周りにある木には少しばかり雪が積もっている。 中には大量の雪をかぶる木もあって今にも折れそうだった。 「はぁ……」 息をはくと白い煙が出た。 寒い。こんなことならコートか何か着てくれば良かった。 そうは思ったが、奴隷の分際でコートなど着せてもらえるはずがない。 近くにさくらんぼの木があった。 今は冬なのに、さくらんぼがなっている。 すごいな、さくらんぼ。 30分も歩くと、一つの家を見つけた。 真新しいという言葉は程遠く、木でできた家だ。 まわりには雪が塊のように置いてある。 雪に足跡がついていない。 どうやら誰もあの家から出入りはしていないようだ。 そこに向かえば向かうほど雪の量が多くなっていき、足場に困った。 が、これも長年の経験。 奴隷生活で身に付けた、雪の上を簡単に歩く方法が役に立った。 そうしてやっと、古びた木の家の玄関に立つことができた。 玄関に窓というものはなく、中の様子はわからない。 どうやらそこに私の主は住んでいるらしい。 2回ほどノックしても返事がなかった。 「……」 もう一度するが、やはり返事はない。 「このっ……」 ノックしても出てこなさそうだ。 全く、のんきな馬鹿王子め。 そう思い、私は勝手に中に入らせてもらった。 部屋に入った瞬間、そこは暖房で温められていた。 あったかくて、ぬくぬくしていて、まるで極寒の寒さに耐えてきた私には聖地であろう場所だった。 そしてその部屋の端。 大きなベッドに私の“主人”になる“キル様”が君臨していた。 見たところ“王子”らしき服は着ていない。 どちらかというと寝巻に似ている。 キル様は私を見て小さく呟いた。 「あんた誰?」 と。 寝起きとみられ、顔はボーっとしていて髪はところどころハネていた。 「起こしてしまって申し訳ございません。 私はメイド25512号。 今日からここで働かせていただきます」 1月27日 午後3時。 それが私と彼の最初の出会いだった。
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