夢物語 一

10/26

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
*   *   * 「このっ! キル様! 起きてくださいっ!!」 朝11時。 私はベッドごしに、枕でキル様をたたいた。 「う~ん、あと5ふ~ん……」 「その言葉、20回目です! 早く起きてください!」 この大うつけ。 大層寝相が悪いようだ。 このやりとりを、さっきからかれこれ2時間ほど続けている。 いい加減に起きてほしい。 王子だからといって、朝11時に起床できないとは……まったくもって情けない。  ……それにしても、この人の風邪は治ったのだろうか。 昨日は出会った直後、 「ふーん、メイドなんたら号ねー。……寝る」 といってキル様は寝てしまった。 そのときは「まあ風邪ひいてるって言ってたしな」って思っていたけど……。 まさか夕ご飯も食べずにこんな時間まで寝ていられるとは。 朝5時起きの私にとってうらやましい朝だ。  ……そう思うと何故かだんだんイライラしてくる。 こんな大うつけが朝11時過ぎまで寝ていて、懸命に働く私が5時起きとかあり得ない。  “王族”っていうのは魔界でも天界でも同じ、自分のことしか考えていないやつばかりだ、全く。 「っていうかいい加減起きてください! そろそろ私、叩きますよ! いくらなんでも遅すぎです!!」 もうすでに枕で叩いているが、という自分へのつっこみを無視して私は叩くポーズをとる。 が、キル様からの反応なし。 それどころか「くかー」という変な寝音まで聞こえる。 ……ああ、うざい。 「起きろっつってるでしょ! このバカ王子が!!」 言った通り、私はキル様の頬を思いきりたたいた。 ペシーーンという強烈な音が、部屋中に鳴り響きわたる。  一瞬、やばいと思い辺りを見渡したが、監視カメラなどはなさそうだ。 叩いたことがバレれば、私は処分間違いなしだろう。 「いったあ!! ちょっと何するのさ!!」  叩かれたキル様は、頬を抑えながら飛び起きた。 顔を抑える手の指から見える頬は、真っ赤になっている。 浮気した彼氏に彼女が平手打ちしてできる紅葉。 これは相当痛かっただろう、と思った。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加