夢物語 一

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 でもまあこれはキル様が悪い。 起きなかった、キル様が悪いのだ。 そう喉まで出かかった言葉をのみこんで、私はふっと笑った。 それから、ざまあみやがれバカ王子と言わんばかりに盛大な笑顔を作って、 「おはようございます、キル様」 と言った。 メイドらしいかわいらしい笑顔が作れた、と我ながら思った。 「おはよう、って……。 おまえ今鼻で笑ったな!? 笑っただろ!!」 「いいえ? 気のせいでは?」  そうして澄ました顔をしながら私は体温計を取りだした。 これもメイドの仕事の一つだ。 朝起きたら必ずキル様の体温を計ると決められている。 きちんと計らなかったらすぐに処刑といわれたから、絶対とりこぼしをしてはいけない。 だいたいなんで体温計のミスだけで処刑になるのだろう。 頭おかしいんじゃないだろうか。 「気のせいなわけあるか! ……まあいいや。 朝ごはんは?」  キル様は私のほうを向いて手を差し出した。 どうやらここにのせろ、と言ってるらしい。 私はそれを無視して体温計をキル様の服に突っ込んだ。 一瞬、キル様は嫌そうに顔をしかめるが無理やり計る。  そういや昨日は遠くてあまり顔が見えなかったが、キル様の顔は整っているキレイな顔立ちをしていた。 それに、紫色をした澄んだ瞳は、何もしらない幼子のような瞳だ。  今、寝癖がついてこの顔なのだから、きちんと整えればそうとうな美男子になるだろう。 あのデブ王から、どうやったらこんな子が生まれたのか不思議だ。 私は、きっと母親がそうとうな美女だったのだと考えた。 「……ねえ、早く」 私に見られて嫌だったのか、尖った声が飛んでくる。 私は体温計を引っこ抜いて答えた。 「すみません、今すぐ」 そう言ってすぐ、「37.2、微熱」と呟き、朝食の準備にかかろうと後ろを向いた。 後ろにあるカートにはキル様の楽しみにしている素敵な朝食が……。 「あ」 「何、どうかしたの?」 思わず漏らした声に、キル様も反応する。 その声を無視して私は再び、カートに目を下した。 が、後ろにあったはずの朝食がなくなっていた。 ……ああ、そういえば10時ごろ、ほかの女中さんが下げに来たんだっけ……。 「申し訳ありません、キル様」 気を取り直して、私は笑顔でキル様の方を向いた。 「何?」
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