夢物語 一

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そんな半袖Tシャツ一枚で外に出たら、凍え死ぬこと間違いなしだ。 しかもよく見たらそのTシャツ超ださいし。 何その『玉子ラブ』って文字T。 凍え死ぬ以前に一緒に肩を並べたくない。 「はあ……。 じゃあ、これ、着てください!」 溜息をつき、私は傍にあった白いコートをキル様に向かって投げる。 が、私はそのコートを一瞬触っただけでわかった。 これ、超高級素材だ……。 投げちゃった、とは思ったものの、すぐに……まあ、いいか、キル様のだし、と思った。 「うわぁ、なんだよもう!! 投げなくてもいいじゃないか! 第一何でコートなんて……」 「五月蠅いですね。早く着て。 おいていきますよ」 文句をつらつら並べていたキル様は“おいてくよ”の一言で喋るのをピタリとやめた。 まるで犬みたいだ。 こういうのは結構使えるかもしれない。  キル様がコートを着たのを確認し、私は再びドアに手をかけた。 これでいいだろう、準備万端だ。 いざ、さくらんぼがりへ、出発! 期待を胸に膨らませ、わくわく感いっぱいでドアをあけたその時。 「あ、待って、靴ない……」 キル様の情けない声が私の耳に入ってきた。 「はあ!?」 私は怒りの声を上げる。 せっかくのさくらんぼ狩り。 初めてだから楽しみにしてたっていうのにこいつは! 「靴ないんですかキル様! もう、私の貸しますからこれはいてください!」 正直なんでこんな奴にかさなきゃいけないのかよくわからない。 が、まあしょうがない。 キル様に命令されてから渡すより、自分から差し出した方が心が気分は良い。 「小さくても、我慢してくださいね」 そう言って、私はキル様に靴を差し出した。 よし、これで準備万端だ。 王子さまの機嫌も損ねず、元気にしゅっぱ――……。 「え、じゃああんたは?」 キル様の言葉に、私は目を疑う。 今言うかそれ、今言うのか!? 私が今貸したばかりだろうが!? 元気に出発しようとしてたところだろうが!? 王族なのだから、ふんぞりかえって『わるいな、はっはっは』てきなことを言ってればいいのよ! 何奴隷の心配してんのよ、良いこぶりッ子か!
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