夢物語 一

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キル様はそう言ったあとも言い訳を探す。 歩くの、遅いな。 そんなこと考えている暇あったら、そのエネルギーを足に使ってほしい。 「キル様、歩くの遅すぎです。 もう少し早く歩けませんか?」 そう、急がなくてはいけないのだ。 もし実を取っているところが誰かにみられたら……。 奴隷の私は“コソ泥”ですぐに処刑にかかるかもしれない。 まあ、キル様がいるからそこらへんは大丈夫かもしれないけど。 私がそう思いながらキル様の腕を引くと、逆にキル様に私の腕が引っ張られた。 「はあ、疲れた。ちょっと休憩」 「な……」 ななな何なんだこの人。 まだ歩き始めてから5分も経っていないでしょうが!! 5分で疲れたとかどんだけ体力ないんだよこの人! いくら朝ごはん食べてなくてもそのくらいいけるよ!! 「はあ、筋肉痛になりそう」 雪の上にどさっと座りながら、キル様はそうぼやいた。 あーあ、そんなところに座ったら、 「つめたっっっ!! なんだよこいつ!!」 ああ、言うの遅かったかな。 まあいいか、キル様だし……。 そう思った瞬間、キル様は勢いよく立ちあがった。 「この! なんでこいつ冷たいんだよばーか!! ばーかばーか!!」 「……」 キル様、相当アホでいらっしゃる。 私は確信した。 この王子、奴隷よりアホでいらっしゃる。 雪に向かって話すことあるか? よりによってバーカだなんて。 幼稚園児か。 そうだ。第一あのデブ王から生まれた子なんだ。 いくらイケメンだろうと何だろうとバカなのは当たり前だった。 どうして早く気付かなかったのだろう。 「キル様、相当バカでございますね」 「なにぃ!? 失礼な! これでも立派な14歳だぞ!」 ほら。やっぱりだ。 魔界の王族ならばここで「無礼な!我は王子だぞ!処刑じゃ!」っていうところなのに。 何でそこで“立派な14歳”を持ってくるの? やっぱりキル様、根本的にバカだ。 この人は“処刑”という言葉を知らない。 と、いうことは、キル様に恐れることはない。 「キールーさーま! そんなところに座ったらだめでしょうが! 雪って水の白いバージョンですよ! それくらいわかるでしょ!」 「なにおぉ! それくらい知ってるわばーーか!!」 「キル様にバカなんていわれたくありません!!」
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