夢物語 一

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「あーーもーーこれでもくらえカーバ!」 キル様は足元の雪を取って私に投げつける。 「カバは立派な生き物です! バカにしてはいけません!!」 こんな人にバカにされるなんてカバがかわいそうだ。 私も負けじと雪玉を作る。 「いてぇ!! もーーおなかすいたあ!!」 「だから早く行きましょうっていってるじゃないですか! なんですかそれ! 赤ちゃんですか!」 よけないキル様の顔面に私の作った雪玉が命中した。 「つめたっ! もー何だこれ冷たいんですけどはっくしょい!! ……さみぃ」 くしゃみまじりに言うキル様。 「自業自得です」 そう言って私はもう一発投げた。 キル様は学習能力がないらしく、また顔面に命中した。 ざまあみろ――。 「ひどいなあんた!! 一生恨むからな!! あーもー、おーなーかーすーいーたー」 またもキル様はだだをこねる。 「だから早く行きますよ! もうあと少しですから、ね?」 私は立て、と言わんばかりに、手でクイッっとした。 古代アメリカ人がよくしてたらしい“come here”のアレだ。 ……ていうか完全に立場逆じゃないか、これ。 「はーぁ? もう寒いし疲れたし行きたくねぇよ」 相変わらずだだをこねるキル様。 だめだ、雪の座布団が慣れてしまったのか、もう冷たく感じないらしい。 ずっとここに居座る気だ、全く。 もうやだ。私だっておなかすいてるのに、なんでこんな人に付き合わなきゃいけないんだろう。 もうこうなったら、キル様を先に帰らせて、私だけさっさと取りに行った方が楽だ。 そうしよう、それがいい。 「もう、キル様先に帰ったらどうです?」 「……え?」 「ここはもう寒いですし、家に帰って温まっててください」 そうだ。ここはもう寒い。 そういえばキル様、風邪をひいてたんだっけ。 「え、じゃあさくらんぼは?」 「ああ、それは取ってきますから、ご安心を」 「えー、一人じゃ悪いよ、オレも行く」 「え」 ええーー……。それ全然意味ないような。 ていうか、ええーー……。 そこでそういうのいらないよ……。 その良い子ぶりっこはあの靴のときだけで良いんだよ、今はいいよ。 空気よめよ……。
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