夢物語 一

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「大丈夫! オレ寒さ感じないんだよね!」 大丈夫って何がぁ……。 ていうかさっきまで冷たいとか言ってたくせにぃ。 あれはなんなんだぁあ……。 「そんなこと言わず、部屋で暖まってくださいよ」 ここで引いてはいけない! 私は負けじと強くそう言った。 が、キル様にそれはきかない。 相変わらず犬のような目でこちらを眺める。 「え~……。せっかくここまで来たのに~。 ひどいよあんた。オレの努力無駄にする気? オレ頑張ったのにぃー」 だだっこのようにキル様は言った。 ああもう、何でこうだだをこねるんだあんたは! それでも王子か! 私と同じ14歳を語るな! ……という勢いで私はキル様に言う。 「いや! 別に無駄にする気はないですけど! ただ!」 「じゃあいいじゃん、よし、行こう」 ただこのままじゃ到達までにかなり時間がかかる――その言葉を遮り、キル様は立ち上がった。 「え、ちょ、ま」 「何してんのメイドさん、早く行くよー」 茫然と立ち尽くす私にキル様は歩き出す。 だめだだめだ、行かせてはいけない! いくらキル様が歩いたところで早さは普通の男子の3分の一! その上歩く時間3分程度に対して休憩時間が5分! 私の身体速度なら往復10分で行ける場所も一時間かかる可能性が高い! これは止めなければ!! ――そう思い私は歩き出したキル様の前に立ちふさがる。 「戻りますよキル様! もう寒いし、第一キル様歩くの遅いし!!」 「もーあんたねぇ、オレ行くっていってるでしょー。 大丈夫だよ、早く歩くしダダこねないからさぁー」 大ジョブ大ジョブ、と数回連呼して、キル様は再び歩き始める。 ああもう! 何を根拠に大丈夫とかいってるんだこの人! さんざん疲れたって言ってたじゃないか! ていうか第一、風邪なおってないんだよね!? 「あ、そうでした! キル様、風邪治ってないんですから、部屋でゆっくり休みましょう? 長く外にいると風邪が悪化しますよ?」 「風邪?」 「そうですよ! 風邪、悪化したくないでしょう?」
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