夢物語 一

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私は「ほら、今は暖かくても段々冷えてきますし……」と続ける。 が、キル様は口をあんぐり開けて「風邪?」とつぶやくだけだ。 「そうですよ、悪化したら大変ですよ?」 私はそう言い、家に戻そうとする。 すると、キル様は棒立ちのまま不思議そうに言った。 「風邪って……誰が?」 「え?」 いや、あんたでしょうが!! あんたが風邪ひいてて、だから私がメイドとしてここにいるんでしょうが!! 私がそう思うと同時に、キル様は言った。 「あんた、風邪引いてんの?」 「いやだから、私じゃなくてキル様が!!」 私の言葉にキル様はポカンとする。 「え、オレ、風邪引いてんの?」 「そうですけど!? ちがうんですか!?」 私の言葉にまたキル様は続く。 「いやぁ、オレ風邪はひいてないはずなんだけど……」 「いや、でも、王様がたしか……」 「王……って、父上!? あんた父上にあったのか!?」 「え? あ、はい、会いましたけど……って、そうじゃなくて!」 風邪だから早く帰りましょうよ! という言葉を遮りキル様は言った。 「えーいいなー。  オレ生まれてから一度も会ったことないんだよね」 続く衝撃の言葉に、次は私がポカンとする。 “生まれてから”“一度”“も”? 奴隷の私ですら会ったことがあるのに!? 「え、キル様、王様に会ったことないんですか!? なんで……」 「そうなんだってねぇー。 何でかは知らないけどないんだよねぇー。 あ、じゃああんたさ、次父上に会ったら『元気ー?』って言っといて」 「え、あ、はい、わかりましたけど……え?」 私の驚きは止まることなく、頭の中では何で? が、繰り返されている。 「そうかー。オレ風邪だったのかー。 父上が言うならそうなんだろうねぇ。 でもオレ、風邪というよりも……」 すると突如、キル様の言った“風邪”という言葉で私の頭の中から“?”が、“風邪”という単語に入れ替わった。 「そうでした! キル様、風邪なんですから早く帰りましょうよ!」 すぐさま私は、キル様に帰ることを提案する。
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