夢物語 一

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「えー、でもやっぱオレ風邪ひいてないと思うんだよねぇー。 だからさくらんぼ狩り、いけると思うよ。楽勝楽勝」 が、やはり風邪をひいてないことを主張するキル様。 「全く、どこにそんな根拠が……」 「根拠? ないにきまってんじゃん。 ていうか第一、風邪ってどうやったらわかるの?」 「そっからかい……」 風邪の理屈も分かってない奴が、何故オレは風邪じゃないと言い切れるんだ!! もう全くもってけしからん! ほんとにもー!! 私は盛大に溜息をつく。 「風邪っていうのは、例えば声が鼻声だったり、鼻水が湧き出たり、咳が出たりすることですよ! もう!」 何で私がいちいち説明してるんだよぉ……。 そう思いながらもきちんと説明する私ってえらいと思う。 もう……。 私はもう一度、溜息をついた。 「ならさ、オレ全部クリアじゃん! 声よし、鼻よし、咳よし! 3つそろってわっしょい!」 「はあ?」 「はあ? って……。よく言うでしょ? 布団よし! 暖房よし! 枕よし! 3つそろってわっしょい!!」 キル様はキメポーズまでしてそう言う。 「……いや、初めて聞きましたけど」 「おかしいなぁ、じいはいっつも言ってるんだけどなぁ」 じいっていうのはキル様の執事(現在出張中)だ――。 私は一瞬にして理解した。 それにしても始めて聞くな、そのなんたらわっしょいは。 「ね? だからオレ、風邪ひいてないよ」 なおも主張してくるキル様に、私は少々イラっとする。 「まだありますよ、キル様。 熱があれば風邪確定です。あるんじゃないですか?」 私はそう言って右の小さなポケットに手を突っ込んだ。 たしか朝、体温計をこの中にしまったはずだ。 メイドの仕事で、朝体温を測ることを絶対とされている。 しかし。 「ない……」 手を突っ込んだ右ポケットに、それらしき堅いものはなかった。 「でしょ? 熱ないでしょ?」 「いや、そうではなく」 口をはさんでくるキル様に適当にそう言って、私は左ポケットも探す。 「ない……」 が、やはり左ポケットにもそれらしきものはなかった。 「もー、何がないんだよ」 「体温計が! ないんですよ!!」 私は強くそう言った。
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