夢物語 一

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「いや、え? じゃなくてマジで。  じいはおじいちゃんだからなくしものが多いの」  私は再び、キル様の言葉に驚く。 だって、体温計なんかなくしたりしたら即刻処刑じゃないか。 「それで……おじいさんはどうなったんです?」 「え? どうなったって……どうにも?」 キル様のあいまいな答えにいらだちを覚える。 なんなんだ、どうにもならないわけがないじゃないか。 「処刑とか……されなかったんですか?」 苛立ちを隠し、私はキル様に聞いた。 「処刑? なにそれ? おいしい?」 「はぁー?」 私は肩をおとした。ああ、そうだ、こいつバカだったんだ。 キル様は処刑だの首切りだの知らない――さっき自分で悟ったじゃないか。 「ええーっと、じゃあ……」 なんていえばいいんだろう、と考えながらつぶやいた。 『おじいさんは殺されたのですか?』と聞いてもいい。 けれどそれでキル様が、処刑=殺す、ということを知ってしまったら私の命があやうい。 こんなバカでも王族は王族。 今は?W処刑?Wという言葉を知らないから、たとえ私が逆らっても、キル様によって殺されることはない。 だけど言葉の意味やこの社会を知ってしまったら、キル様はいつでも私を殺すことができてしまうのだ。 別にこの世界に未練なんてないけど、処刑という死に方は一番いやだった。 「ええと、それなら……あ、おじいさんは体温計を見つけたんですか?」 「え? 体温計? なんか掃除機で吸い込んだって言ってたけど」 「そ、掃除機で!? そうですか……」 おじいさんも大変だな、と思った。 ていうか掃除機で吸い込めるのか?
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