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「いや、え? じゃなくてマジで。
じいはおじいちゃんだからなくしものが多いの」
私は再び、キル様の言葉に驚く。
だって、体温計なんかなくしたりしたら即刻処刑じゃないか。
「それで……おじいさんはどうなったんです?」
「え? どうなったって……どうにも?」
キル様のあいまいな答えにいらだちを覚える。
なんなんだ、どうにもならないわけがないじゃないか。
「処刑とか……されなかったんですか?」
苛立ちを隠し、私はキル様に聞いた。
「処刑? なにそれ? おいしい?」
「はぁー?」
私は肩をおとした。ああ、そうだ、こいつバカだったんだ。
キル様は処刑だの首切りだの知らない――さっき自分で悟ったじゃないか。
「ええーっと、じゃあ……」
なんていえばいいんだろう、と考えながらつぶやいた。
『おじいさんは殺されたのですか?』と聞いてもいい。
けれどそれでキル様が、処刑=殺す、ということを知ってしまったら私の命があやうい。
こんなバカでも王族は王族。
今は?W処刑?Wという言葉を知らないから、たとえ私が逆らっても、キル様によって殺されることはない。
だけど言葉の意味やこの社会を知ってしまったら、キル様はいつでも私を殺すことができてしまうのだ。
別にこの世界に未練なんてないけど、処刑という死に方は一番いやだった。
「ええと、それなら……あ、おじいさんは体温計を見つけたんですか?」
「え? 体温計? なんか掃除機で吸い込んだって言ってたけど」
「そ、掃除機で!? そうですか……」
おじいさんも大変だな、と思った。
ていうか掃除機で吸い込めるのか?
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