カイ

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「周辺索敵開始!」 一人の兵士の合図に他の十名の兵士達は解散した。 町中へと消えていく兵士達の背中を見送ると、合図を出した兵士は溜息をついた。 彼は帝国軍所属カイ駐屯部隊副官、名前はスルタン・キーシンという。 階級は中尉。 「くそっ」 こんな時に襲撃してくるとは。 キーシンは心の中で呟く、その呟きは舌打ちとして体の外に発せられた。 駐屯部隊の本隊は長距離行軍中。 その留守役にキーシンの分隊が待機した。 するとこれだ、それは見計らったかのように賊が現れた。 駐屯部隊の出動に市民達が野次馬している。 なぜ出動しているのか、その予想を話したり辺りは大騒ぎとなっていた。 どいつもこいつも馬鹿にしやがって。 誰のおかげでぬくぬくと生きながらえていると思っている。 俺達兵士がかけがえのない血を流しているからだ。 いますぐこいつらを解散させたい。 いや、それよりすぐに帰りたい。 さっさと終わらせて帰ろう。 キーシンは不満そうに眉をひそめながらライフルを構えた。 賊など一ひねりだ、いいウサ晴らしになるだろう……。 「あのー」 「誰だ!」 キーシンのライフルは一人の若者に向けられた。 銃口を向けられた若者は手を挙げて無抵抗をアピールする。 「お、落ち着いてください」 「なにを馬鹿な!私は任務中なんだぞ!気安く話し掛けるな!」 「俺はその任務を手伝うよう要請されたんですよ……あなたの上層部に」 「なに?」 そういえば出動前にそのような話があった気がする。 今回の劣勢な戦況を受けて司令部が傭兵を雇ったとか。 言われて見ればこの男もライフルやサイドアーム、腰には細剣をさしている。 「司令部が雇ったらなら仕方ない、君達の人数は?」 「三人です」 「さ、三人だと?」 「はい」 三人加わっただけどなんの戦力になるというのだ。 「我々に全滅しろと言うのか……司令部は」 「大丈夫ですよ」 つい漏らしてしまったスルタンの一言に若者が反応する。 スルタンの落胆した表情とは対照的に、若者は平然とした表情を見せる。 「我々がなんとかしてみせます。中尉、攻撃許可を」 「攻撃許可?……許可する」 「レイピア、ハトホル、攻撃許可が下りた」 『了解』 若者が行う通信動作にスルタンはぼんやりと、事が終わるのを待つしかできなかった。
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