別離

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その夜は三日月だった。 月の光が町を照らし、町も返すように民間が光を出している。 もっとも町の光が月に敵うはずもなく、この町自体もそこらの町には敵わないだろう。 廃業した酒場のバルコニーからレオはたばこを吹かしていた。 今夜はいつにも増して静かだ。 日中にあんなこともあれば当然だろう。 だがなにがあろうとこの町で生まれ、育ったことには変わりない。 「こんばんは」 「なーにがこんばんはだよ」 挨拶をしてバルコニーに来たのはエルリアだった。 「ネオはどうした?」 「あれやこれや準備してる」 「もう帝国軍への登用が決まったようだな」 皮肉っぽく笑うレオにエルリアは至って真剣な表情だった。 バツが悪くなったレオはごまかすように町に目をやり、たばこを吹かす。 「レオはどうするの?」 「あぁ……今まで知らなかった親父について知れるチャンスだ。だがよ……」 「だがよ?」 「俺達がいなくなっても大丈夫か、と思ってな」 「ネオもそう言ってたね」 三日月に薄い雲がかかり、少し薄暗くなる。 レオはこの町で生まれ、知恵、技術、友人、そして戦い方や命のやり取りも学んだ。 父親がいない家を母と共に守り、今では友人と自警団として町をも守ってきた。 どうあろうと、どう寂れようとこの町は自分の全てだった。 登用に来た軍人は兵力を増強するとは言っていた。 だがレオにとっては、今回の襲撃でさえも自警団に依頼してきた軍をいまいち信用できなかった。 故に父親について知るチャンスも一歩が踏み切れずにいる。 「けどさ、あのニキータって人を信用してみたら?」 「あの大尉を……帝国軍をか?」 「そりゃ、帝国軍には困らされたこともあるし私もこの町は心配だよ。けど、外の世界を見てみたい……気もする」 「確かに……そうだな」 「ネオも行く気満々だし」 こうしている間にもネオは準備をしているのだろうか。 だとすると、ネオの中では決断しているのだろう。 レオは行くに決まっていると。 「……エルリアも準備をしておけよ」 レオの一言にエルリアの表情は明るく、笑みを見せていた。 明日にも荷物を持って、あの軍人のところに行かねばならない。 三日月を隠していた薄い雲は流れて、月明かりの明るさが戻っていた。
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