序章

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避難トンネルは郊外へと続く洞窟で主に要人専用に使われる。 もっともレンガ邸宅の建造と同時進行で作られたこのトンネルは今まで使用例がない。 いつ設置されたか不明な年代物の電灯はあるが薄暗く、人が四人程並べば道が塞がれてしまう。 「ライトを点けます」 ひとりの兵士がつぶやく。 行く道が少し照らされるがかなり乏しい。 ライトを点けた兵士を先頭に矢印を作るように兵士が陣形を作る。 その矢印の傘に守られるようにスーツ姿の初老男性が続く。 「前進」 リーダー格の兵士がつぶやくと矢印が前進する。 兵士達はライフルを絶えずあらゆる方向に向けながら警戒した。 トンネル内は兵士達の装備の音、呼吸、足音が響く。 「このトンネルはどれくらいあるんだい?」 「五キロメートルです。ただしこれは建設当時の資料、いまはどうなっているか不明です」 「まったく、これの出番があるとはな」 「もう少し進めば軍のバギーがあります」 『レイピア!こちらアーチャー1!物凄い数の敵が押し寄せている!支援を!』 『こちらブロンズ1!敵の勢いが収まらない!至急支援を!!』 「レイピアというのは?」 「私のコードです」 『レイピア!なんと言った!?支援は寄越せるのか!?』 「アーチャー、ブロンズ。お前達は英雄だ……感謝する」 『なんだと!?ふざけるな!おい、アークレット!!』 それ以降無線からは銃声や悲鳴が聞こえるのみであった。 レイピアことアークレットは表情を変えずに無線をいじる。 銃声や悲鳴も聞こえなくなった。 「……辛いな、少佐」 「彼らはあなたを信じ、私を憎んで散りました。そうでもなければ今頃クーデター側にいたはずです」 「前方にバギー視認!」 「あなたにはまだやることがある。私は冷血な男と言われても構わない……それだけあなたに賭けているのです」 「……わかった少佐、私も心を入れ替える」 初老の男が笑みを見せた。 同時に洞窟内にはバギーの燃費の悪そうな音が響き渡る。
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