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レンガ邸宅を出ると、そこには無数の兵士達が邸宅を囲むように待機していた。
兵士達のヘルメットには赤いライン、クーデターの兵士達だ。
彼らは待機といってもリラックスしている、まるで戦に勝ったかのような。
ところどころ正規軍が抵抗しているのだろう、銃声が聞こえるがそれも微かな音だ。
「最後の散歩にはうってつけの光景だろう」
「あぁ、ヘドが出る」
男はニヤリと意地悪い笑みを浮かべる。
もし手が自由ならば思い切りぶん殴るところだ。
アークレットも男の皮肉に抵抗するように引き攣った笑みを作ってみせた。
「答えてもらおうか、お前らは傭兵なのか?」
「あぁ……それに答えなければな。我々はコルポシア帝国軍特務作戦部隊『メドヴェーチ』だ」
「コルポシアだと!?なぜ、クーデターにコルポシアが加担するのだ!」
「我が祖国にとってセレホドー氏は目障りなのだよ。彼のおかげでロディニアは完全にコルポシアの言いなりになっていない……ロディニアはそれほど価値があるのだ」
「なるほど……お前らはアレが目的か」
「あぁ、だがこの情報はロディニアの一部要人しか知らない。だからこそアークレット少佐、君を生かしたのだ」
「なに?」
「大人しく我々の祖国に来てもらえば身の安全と生活の保障をしよう。一生遊んで暮らせる財産もだ。君の決断にはそれほど価値がある」
「なるほど……一生遊んで暮らせるか……」
「悪い条件ではないはずだ」
男はアークレットの肩に手をのせる。
アークレットは目を閉じた。
「お前、名前は?」
「私か?私はヘルムート・シュルストネフ中佐だ」
「これはこれは上官殿、お誘いの報、誠に恐縮。そして誠に遺憾ではありますがお断りする」
「ほう?」
「ロディニアの男はそれほど安くない。アレのありかなら教えてやる、このレンガ邸宅を入ってすぐ左。コルポシアでも青い服の紳士マークは男性用か?このクソッタレ」
「……ロディニアの紳士には恐れいるよ」
『シュルストネフ中佐!セレホドー氏が逃走しました!』
「なに?」
セレホドー逃走の報にアークレットはしてやったりな顔、シュルストネフには青筋が入る。
「残念だったな」
「あぁ残念だ。アークレット少佐……君とは良い友人になれそうだったのに」
曇天の空に一発の銃声が短く響いた。
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