第1章

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という云われがあるわけでもないんですよ。唯一が酒一升。 だから、もしかしたら、そのお酒の方が何かあったのかも。  とにかく近くを通った人に、元居た場所まで運んで欲しい。 そのように頼むのですが、どうも聞こえていないらしい。 運んでもらえないどころか、石が喋れば驚くか怪しむでしょ。  完全に無視なんですよ。段々重くなるオッパショ石でさえ 負ぶってもらえたというのに、私、そういう悪さはしません。 確かに多少は、重いですが。ダイエットしたくても石ですし。  ところが、ある夜に泣いていたら、別な酔っ払いさんが来て 「おまえさん、いい酒の匂いだな。持って帰って舐めようか。」 いやいやいや。私は元の位置に戻りたいのであって。 あらあらら。どんどん故郷から遠くなる。時々には酒石様なんて 妙な名前で呼ばれて、酒ぶっかけられるようになって、ヒック。  日本全国津々浦々の酔っ払いさんに、色んな酒を呑まされて。 ヒック。こっちも酔っ払いますから、昼間は寝てます。 夜になると酔っ払いのみなさんが。ヒック。私を少し運んでは 酒の肴なのか祀ってるんだか。判らないままに。  いま沖縄に来てます。泡盛おいしいです。ヒック。 でも、私は泣き上戸なんですよ。うわーん帰りたいよー。ヒック。 絶対、いつか祟り殺してやるからなー。 ヒック、嘘ですから誰か運んでくださいませ。うわーん。ヒック。  だから『酔泣石(ヨナキイシ)』です。ヒックヒック。
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