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『皇居の周りを十周くらい走って来たら、どう? 良い感じに集中力が増すかもしれないわよ』
いえ、もう十分に走り回ってますので。
それに皇居付近はうちの管轄じゃありませんよ。
そう言い返そうとした稲垣だったが、電話の向こうからは別の声が入ってきた。
『稲垣、私だ』
華やかな女性の声に替わって耳に入ったのは、課長の声だった。
「はい」
『……大城を目撃したと、本庁に通報が入ったらしい』
「えっ!」
課長が告げたその一報は、稲垣の全神経を再び張り詰めさせるのに十分なものだった。
『場所は、グリーンリサーチラボ。まだ我々が未確認である最後の拠点だ。退出する研究員にどうやら、半ば強引に手帳を見せて入所したらしい。……合同研究に関わる刑事の顔と異なることに、不信を抱かれたんだ』
あの、バカ野郎。
胸の内で文句を垂れながら、稲垣は車両に乗り込んだ。
「すぐに、向かいます」
『頼むぞ、うちから警官を応援で向かわせるが、本店はいち早くやつの確保に一斉警報を出した。急げ、時間がない』
本庁に身柄を拘束されてしまったら、全ての終わりだ。
間違いなく、大城は警官殺しの汚名と共に警察から消される。
稲垣は通話を切ると、車をバックさせて現場を後にした。
赤いランプが再び、車両の上で光を放つ。
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