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「……」 「……」 なんだ、この重苦しい雰囲気は。 誰ひとりしゃべらない。 こんな客、初めてだ。 すごい、疲れる。違う意味で……。 「おい」 ため息をつきそうになると、遙と呼ばれる男がこちらを向いていた。 「はい、なんでしょうか?」 気を引き締め直し、ニコリと笑う。 「全然飲んでないが、お前下戸じゃねぇよな」 「まさか。私、これでもお酒は強いんですよ。矢嶋さんには、負けるかもしれませんが」 「ほぉ、そういったこと、死ぬほど後で後悔することになるぞ」 こいつ、どんだけ飲むんだよ。 さっきから酒を飲むペースが落ちない。 とんだ酒豪だ。ザルなのか…… 「矢嶋さんが満足するまで、お付き合いさせていただきます」 「フンっ」 「ちょっと、柚季ちゃん。俺のこと忘れてない?」 「お前は出された食事をさっさと食べろ」 「別に俺ご飯食べに来たんじゃないっつーの……」 さっき邪魔されたことが不服なのか、ちょっと拗ねた様子で退屈そうに畳の上に転がる。 面倒臭い男だな……。 「高嶺の華」 「え?」 「なんだろ?お前は」 「あぁ、吉原ではそういう肩書もありますが」 「高嶺の華は、金をそうとうつぎ込まないと指名できないんじゃなかったのか?」 確かに、そういう決まりだ。 昔から、そういうルールがあり、何人も花魁のような天下を持つ女を求めて金を貢いだ。 でも、私は違う。
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