12/29
前へ
/341ページ
次へ
「……さんっ」 誰かが私の名を呼んでいる。 男のような名前。 誰だ、私を呼ぶのは……。 「……るさんっ。弓弦さんっ」 「……ん」 目をうっすらと開けるとぼやけた視界に見知った顔が映る。 「宗、くん?」 「起きてください、弓弦さん。ちょっと大変ですよ」 「なにが……」 時計を見ると、開店1時間前だ。 外はもう夕方の景色。 私の生活は昼夜逆転しすぎだろ。 「昨日来た蒼樹という人から予約がありました」 「……は?」 なに、今蒼樹って聞こえたんだけど。 「他に予約客もいたので、今日はと樹さんがお断りしたんですけど……」 「けど、なに?」 「昨日の倍金を払うって……」 昨日のエロ親父みたいなことをいうな。 あの男も、私を指名する為だけに金をいくらでもつぎ込む男だ。 一体、蒼樹という男は何を考えてるのか。 見たところ、私にただ興味を持っただけのように印象をもったんだが。 ただの面白半分での興味か、ほかに目的のある興味か……。 「で、樹はうけたの?」 「はい。今日は4人の予約です」 身が持たんな。 樹も考えてくれてるのか? 「で、蒼樹はいつくるの?」 「ラストです」 「……」 死ぬ、そう脳内が警鐘を鳴らす。 「まぁいいや。とにかく準備する」 「了解です」 すべては金。金のため…… そう考えてやるしかない。
/341ページ

最初のコメントを投稿しよう!

838人が本棚に入れています
本棚に追加