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「やぁ、昨日ぶりだね。柚季ちゃん」 ヘラヘラした締りのない顔でこちらに手を上げる男 蒼樹元晴。 今日は一人か。 「昨日に続き、来てくれるとは思いませんでした」 「だって、昨日は遙に邪魔されたからね」 そういってこちらに近づいてきてニコリと微笑む。 そして耳元で要望通りの服を見て、満足そうに似あってるとささやき器用に片手で私の背後にある襖を閉めた。 「その服は俺が用意した服なんだよね。俺の目にくるいはなかったみたいだ」 私の腕を掴んで部屋の奥まで歩いていく。 そして、自分が座りその膝の上に、向かい合わせになるように私を座らせる。 「貴方が選んだものだったのですね」 「そうだよ。君へのプレゼントだと思って貰ってよ」 「ありがとうございます」 この服は流石に売れないな。 金にならないもの。 「それよりも」 頬に手を添えられて笑われる。 「もう初対面じゃないし、敬語はよしてよ。君、他の客には敬語じゃないだろ?」 なぜ、そんなことが言えるのか不思議だが、間違ってはいないので何も言わないでおこう。 「じゃ、貴方の要望通りにさせて頂くわ。蒼樹さん」 「元晴でいいのに」 「他の客もみんな苗字で呼んでるから、これが癖なの。ごめんなさい」 「別にいいけど」 ま、仕方ないか、と呟きながら、私の髪を撫でている。 「昨日は結構初々しかったけど、今日はそんな雰囲気じゃないね。見られるのに慣れてないの?」 当たり前だろ。 他人を目の前にしてなんて、なんのプレイだ。 「基本的にみんな一人でくるから」 「まぁ、それもそうだけどね。昨日の君結構可愛かったのに」 今は違うってか?え? 「今日は、かわいいというよりも、色気がダダ漏れだね。なんか卑猥だ」 人の存在を卑猥呼ばわりするな、変態。 さっきから腰を撫でているその手を今すぐどけて欲しい。
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