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「……」 目を開けると見慣れた部屋の天井が目に飛び込んでくる。 やけに落ち着いたこの心をどうしてくれようか。 「胸糞悪い夢だ」 なのに、心はこんなにも落ち着いてる。 何もかも、諦めたからだろうか。 この世界に期待するだけ無駄だ。 まともに。なんて考える方がばかばかしい。 「弓弦さん?」 「ん?」 襖をあけて宗くんが入ってくる。 「珍しいですね。いつもぎりぎりまで死んだように眠るのに」 「死んだように、って失礼だな」 「それが一番しっくりくるんです」 ま、眠りは浅くない方なんだけど。 基本的に寝床にくるのは宗くんと樹だけ。 私は、この人間以外の前では眠れない。 「昨日は酷く疲れてたので、もっと眠ってもいいんですよ?」 「いや、いい。行くとこあるから」 「街にいくんですか?」 「今日月末でしょ?」 「……あぁ、そうでした」 時間はまだ昼前。 寝たのは夜が明けてからだけど、そうもいってられない。 今日はどうしてもいくとこがあるんだ。 「今すぐ洋服準備しますね」 「ん、ありがとう」 布団から立ち上がり、顔を洗いに洗面所まで行く。 顔を洗うと一気に目がさえる。 顔を上げると鏡には自分の顔がうつる。 赤い眼に黒い髪。 どうすればこんな目になるのか、よくわからないけど。 でも、私は不思議とこの目を見ても気にならない。 彼らがこの目を好きだったからだろうか。 部屋に戻ると、服一式既に準備されてある。 部屋着を脱いで、洋服に着替えて行く。 Tシャツに7分丈のズボン。 上着にパーカーを羽織る。 髪は上に上げてポニーテールにしておく。 「弓弦さん、これどうぞ」 「ありがと」 宗くんからコンタクトを受け取り、自分の目を赤から黒にする。 帽子を深くかぶって完成だ。 「今日、予約客の一人に彼らがいます」 「そう。わかった準備しといて」 「はい。弓弦さんが帰るまでに、必ず」 「お願い。それじゃ、いってくる」 「お気を付けて」 宗くんに見送られ部屋をでて、店からも出る。 日が高いうちに外にでるなんて滅多にない。 「いくか」 樹に教えてもらった裏道を通って、吉原から出て目的地を目指して街まで繰り出した。
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