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吉原は昼間は静かだ。 夜の仕事が多いから、昼間はちらほら人がいるだけで、夜のようなキラキラしたネオンの光も賑やかな男や女たちの声もない。 それにくらべて、一歩都会の世界に入ると、朝も夜も賑やかな街並みが普通になる。 高いビル、激しい車の交通、人の歩く姿。 スーツをきた男が上着をもって動き回ったり携帯を触っていたりしていて、若い女は大人数でお洒落な格好をして歩く。 年をそこそこ重ねた女は同じような人間でスーパーの袋を持ってる。 昔は、私はこの世界にいた。 賑やかで、彼らにとってはこれが当たり前。 逆に私たちのいる吉原が異質に見える。 私は、この当たり前の世界が、憎くて、嫌いだ。 誰かが決めた普通で誰かが異質になる。 誰かが決めた基準で、誰かがけむたがられて、生活が崩れて行く。 そんなこと知ったことかと、異質とされる人間には誰も手を差し伸べてくれない。 たとえ、その人が悪くなくても……。 駅に行き、改札を通って電車に乗り込み目的地まで目指す。 窓から見える景色をじっと眺めながら静かに、電車が駅に到着するまで待った。
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