prologue

3/3
前へ
/341ページ
次へ
「チッ。たったこんなけかよ。散々好き勝手した癖に」 雪の降る、寒い冬の空の下。 薄暗い路地裏に蹲る。 帰るとこなんてない。 持つものは、服とお小遣いなみの金額しか入っていない財布。 手に握るのは、先ほど手に入れた3万円。 私は、このとき初めて金で自分の身体を売った。 でも、こんな金じゃ家も借りれないし、なにもできない。 情けない。 自分は何故ここにいるのだろう。 あの時、親と一緒に逝きたかった。 連れてってほしかった。 私に残るのは、絶望と苦悩。 路地の外はワイワイと人のにぎやかな声。 くだらない。 あんな世界、私なんて受け入れてくれない。 「さむ……」 膝を抱えて座って身体を縮こまらせる。 いっそ、このまま死んでしまいたい。 「あら、こんなとこで何してるの?」 「?」 ふいに聞こえた声に軽く顔を上げる。 そこにはえらく美人な長身の女が立っていた。 「……誰」 「ただの通行人。買い物ついでにあるいてたら、貴方がそこに座ってるから」 「……」 「ここ通ると近道になるのよね。私のやってる店のあるところまでの」 べらべらと喋るうるさい女。 「しかし、貴方……」 女が近づきしゃがみ込んで私を凝視する。 ジロジロ見られるのは好きじゃない…… 「きれいな顔ね、髪もサラサラだし、ちょっと細すぎる気もするけど」 「それがなに」 「その挑発的な眼。嫌いじゃないわ」 「……」 人の話聞けよ 「ねぇ、あなた名前は?」 「……ゆずる。橘、弓弦」 「ねぇ、弓弦。あなた、お金欲しいんでしょ?」 私の握るお金を指さして、にやりと笑う。 この女は、煩いし結構失礼だが、不思議と悪い人には見えないのはなぜだろうか。 「なに、金稼がせてくれんの?あんたの店で」 「フッ。ええ。弓弦。あなた、私の店に来なさい。貴方の生活と人生すべて、私が拾ってあげる」 その自信たっぷりの言いかたで私に手を差し伸べる。 私は、その手を迷いもなくとった。 それが、私の人生を大きく変えた出会いだった。
/341ページ

最初のコメントを投稿しよう!

838人が本棚に入れています
本棚に追加