838人が本棚に入れています
本棚に追加
「はぁ……」
がらんと殺風景な和室で窓枠に手をかけて外を眺め息を吐く。
手には、先ほどまで相手をしていた親父からの贈り物。
高いルビーのネックレス。
着物は早々に脱ぎ捨てて、今は上の服はワイシャツ1枚。
楽で仕方がない。
仕事であれ、着物を着るのはつかれる。
「弓弦さん」
襖から声が聞こえて、目だけそちらに向ける。
「どーぞ」
「失礼します」
襖を開けて入ってくるのは、まだ未成年だと言われてもおかしくない甘いマスクの男前。かっちりスーツを着こなして、少し癖気な茶髪が歩くたびにサラリと揺れる。
堀宗介。
私の働く吉原の店「高嶺」で共に働く男。
私のお世話係だ。
もっと普通の仕事できたでしょうに……。
「もう、弓弦さん。またそんな格好して」
「どうせ仕事が入れば、着物着るんだし。脱ぎやすいのがいいの」
「そうですけど……ほんと"柚季"とのギャップが激しいですね」
仕事中は”柚季”と名乗って仕事してる。
実際は橘弓弦ていう名前。よく口頭だけで伝えると男と間違えられる。
それに、柚季は完全に猫をかぶっているから、仕事がない私との性格が真逆なのは当たり前だ。
本当は、高嶺の華なんて地位、似合わないくらい女らしくない腹黒い女だよ。
「それより弓弦さん、次の仕事ですよ。2人いらしてます。友人同士だそうで、結構な額を出してきたのでお受けしましたがいいですか?」
「宗くん、それいくら?」
「10万」
「ふーん。いいよ、やる」
立ち上がり、ワイシャツのボタンに手をかける。
宗くんは手際よく、次の着物を選んで私に着つけていった。
最初のコメントを投稿しよう!