殺戮という名の日常

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「……おり、香織ってば」  呼び掛けながら肩を揺すられ、香織と呼ばれた少女は目を覚ました。元は白かったんだろう少し黒ずんだ天井との間に入り込むようにして自らを見下ろす顔を見て、ようやくそこが現実だと理解する。まだ僅かに焦点の安定しない目を覆うように香織は無意識に額に右手の甲を乗せる。額に滲んだ汗がまたあの夢を見たのだと知らせていた。 「大丈夫?」  返事をしない香織を覗き込んだままのもう一人の少女が心配そうな表情を浮かべる。 「ごめん」  香織が右手の甲で汗を拭いながら身体を起こすのに合わせて覗き込んでいた少女も身体を起こす。漆黒の長い髪が身体の動きに合わせて香織の鼻をくすぐった。漆黒の髪の少女が二段ベッドの梯子から降りてすぐ傍のカーテンを開けると、窓からは眩いばかりの光が部屋に注ぎ込み始める。 「大丈夫。まだ時間あるしシャワー浴びてきたら?」  少女は窓を挟むようにして二段ベットの向かいに置かれた鏡の前に座ってから慣れた様子で髪をとかしていく。太陽の光に右手をブラインド変わりにしていた香織は、目が光に慣れるのを待ってから動き始めた。  二段ベッドから降り窓からの景色を眺める。南向きの窓からは太陽の光が降り注ぐ。窓からの見える一面に広がる海。窓に反射してぼんやりと写る自身の髪を見て、香織は後ろで髪をとかしている少女に聞こえないようにため息を吐いてから部屋に備え付けられたシャワー室に身体を向けた。
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