意志の表出

2/17
前へ
/460ページ
次へ
その姿を目にした瞬間……これまで歴史として知識にあった2週間の記録が、経験としての2週間の記憶に変化した。 「ああ………」 何故……俺はこんなにも愛しい人を忘れていたんだ…… 「……セラ」 「ユウ…ヤ……?」 視覚、聴覚から入ってくる情報を正しく読み取れない。 感情が…ひとりで先走っている。 俺はセラに手を差しのべた。 ほとんど無意識に……本能的にセラを求めていた。 しかし、その手は振り払われた。 何が起こったのか、一瞬わからなかった。 振り払われた手に籠る少しの痛みが、幾分か俺を冷静にさせた。 それでも、普段とはほど遠い状態だった。 「セラ……なんで……?」 考えればわかること。 しかし、俺は考える事を放棄していた。 「なんで…って…… 私だって……なんで………なんでなの?」 「セラ。 ユウヤはアルテアマナ平原で目覚めてから、これまでセラについての記憶を失っていたんだよ」 タクミが説明する。 そうだ……俺は何故そのことを言わなかった? 「なんで……今さらそんな事……」 セラは涙を流し、俯いた。 しかし、すぐに涙を拭い顔を上げる。 その表情には鬼気迫るものがあった。 ああ、俺はこの顔を知っている。 この顔は、俺を敵視している者の顔だ。 その直感を裏付けるように、セラの言葉は俺を射抜いた。 「私、知ってるよ……ユウヤ。 あなたはすでに魔人ふたりを葬った。 あのふたりはリンドヴルムの将だった。 だから魔人ふたりを討ったあなたは──────」 予想した。 働かない脳みそから次の言葉を。 そして、心が痛んだ。 それを言われた自分と、それを言ったセラの心境を察して。
/460ページ

最初のコメントを投稿しよう!

241人が本棚に入れています
本棚に追加